記憶の音節

なくしたCDの記憶を書き始めました。ブログ名は某書から拝借。

CDの記憶 セザール・フランク ヴァイオリン(チェロ、フルート)ソナタ

フランクのヴァイオリン・ソナタ

 この曲を「名曲」と言わずして何を名曲というのか、というくらいの名曲であります。もし私に淀川長治さん並みの話術があったら、この曲のいいところを次から次へと並べ立ててみたい。あるいはこの曲の一部始終を一席の講談に仕立てて語ってみたい。

 

 4楽章構成ですが、曲の冒頭に登場する音型が、手を変え品を変えしながら最後まで一貫して使われ、全体が一つの途切れない流れのようです。楽章ごとに違うテーマが使われる普通のソナタとはちょっと異なる趣。

 

この曲はもちろん純粋に音の世界のものではありますが、語ろうとするといろんな事象になぞらえてみたくなります。

この独特な構成の曲から受ける印象は、生物の成長を見るようでもあり、川とともに流れを下るようでもあり、人の一生の縮図のようでもあり、はたまた人の心の中で毎日のように生まれる葛藤と解決の過程のモデルのようでもあり、あるいは宇宙のどこかで人知れず生起している現象の記録のようでもあり・・・と、聴き手の心に様々な言葉を想起させます。

 

CDは、3種類持っていました。

ヴァイオリンソナタでありながら、別の楽器で演奏されることも多く、どのバージョンも同じくらい魅力的という不思議な曲なのです。

 

まずフルート版。アルゲリッチのピアノ、ゴールウェイのフルート。

管楽器の音で聴くのもいいものです。

フランク:フルート・ソナタ集

フランク:フルート・ソナタ集

 

 

チェロ版(アルゲリッチのピアノ、マイスキーのチェロ) ←これが、失われてしまいました。チェロの温かみのある音色で聴くのは格別の味わいがあり、演奏もすばらしかっただけに残念。  

ドビュッシー&フランク:チェロ・ソナタ集

ドビュッシー&フランク:チェロ・ソナタ集

 

 

そして、某海外若手(当時)男性有名ヴァイオリニスト演奏家の演奏…

 

最後は最近、廉価版シリーズで見つけて喜んで買ってきたのがボベスコ盤

ボベスコの奏でるヴァイオリンの音がとにかくすばらしい。

七色の糸を撚り合わせたような、とか、何色もの色を使って絵筆で描かれたような、とでも言えばいいのか?まるで一丁のヴァイオリンから複数の音色が同時に聞こえてくるような豊かな色彩感(?)を感じる音なのです。

これを聴いてしまうと、某若手の演奏は、技術的には完璧でも、音色のほうは失礼ながら黒ボールペンの細い線だけみたいな味気無さ。。

ま、この辺はもしかしたら録音や再生装置の問題かもしれませんけど。

(余談ながら私はヴァイオリンではグリュミオーやこのボベスコのような音色の奏者が好みです。) 

フランク:ヴァイオリン・ソナタ

フランク:ヴァイオリン・ソナタ

 

  

関連して、この曲への言及がある本を2冊ご紹介。

以前このブログでも紹介した吉田秀和さんの最初の著書『主題と変奏』。

セザール・フランクの勝利」という章があります。類稀な天分に恵まれながらずっと不遇の時代が続き、60歳代になってようやくヴァイオリン・ソナタをはじめとする少数の代表作を書いて間もなく亡くなった彼の生涯を思うと、ちょいと感慨に浸ってしまいますねえ。

 主題と変奏 (中公文庫)

主題と変奏 (中公文庫)

 

 

 もう一冊は、シュタイナー教育の紹介で知られる子安美知子さんの『魂の発見』。これはシュタイナー学校の音楽教育について著者親子の実体験をもとに書かれた、音楽好きにはなかなか興味深い本です。

ある生徒が校内での発表会に向けてフランクのこのソナタを懸命に練習し、演奏するまでのエピソードを読むと、ちょっと胸が熱くなります。

魂の成長を目指すシュタイナー教育には、ある意味最もふさわしい曲なのかもしれませんね。  

音楽選書(2)魂の発見

 

 

 

 

ところで、この記事を書くにあたって動画を探していたら、記憶の中のマイスキーアルゲリッチ盤よりも魅力的かもしれない演奏を見つけてしまいました。

ピエール・フルニエのチェロ。すばらしい…


Pierre Fournier plays Franck - LIVE! - YouTube

 

気に入った動画を追加。


César Franck - Vioolsonate in A - Frederieke Saeijs ...