吉田秀和「LP300選」あるいは「名曲三〇〇選」、「私の好きな曲」ほか
今週のお題「人生に影響を与えた1冊」
だそうな。
分野別に見ていくとキリがないけれど、音楽ブログを書いていることからするとたぶん間違いなく故吉田秀和さんの本。
最初は新潮文庫から刊行された吉田秀和「LP300選」、現在はちくま文庫から「名曲三〇〇選」として復刊されている。
Amazonのデータから解説を転載すると、
「グレゴリウス聖歌やルネサンスの音楽から、ブーレーズ、シュトックハウゼンらの現代音楽まで―音楽史の流れをたどりながら、きくものに忘れがたい感動をあたえる傑作300曲を選び、文化や芸術への深い洞察に満ちた解説を加える。音楽の限りない魅力と喜びにあふれる「名曲の歴史」。 」
一冊の文庫本の中で、西洋音楽の通史を、300曲の名曲を歴史の大きな流れの中に位置づけながら、作曲家ごと、曲ごとの固有の魅力を解説している。しかもその文章は教科書的になるどころか読み手の感性や関心を目覚めさせるみずみずしさに満ちていると同時に、誰よりも確かな知識と経験に裏打ちされている。こんな本が書ける人が他にいるとはとても思えない。
クラシック音楽の入門期にこのような本に出会ってしまって影響を受けないわけがない。
しかも新潮文庫版の巻末には、曲ごとに詳細なおすすめLPガイドがついていて、これがまた読み応えたっぷりなのだ。今思えばこの上なく幸運な出会いだった。
ちなみに300曲の名曲の一曲目は、『宇宙の音楽』。これは文字通りの意味であって、実際にこの題名の曲があるわけではない。著者の音楽への、ひいては宇宙への畏敬、敬意が表明されたこの導入部で私はすっかり参ってしまった。よかったらぜひ原文に当たってみてください。ちょっとだけご紹介。
ー「天と地のもろもろのもの」を、神がつくった時、どんな音楽が宇宙にひびきわたったのであろうか?」ー(新潮文庫版 14ページ)
(2曲目は「グレゴリオ聖歌」。)
このブログでは今のところ、失われたCDの記憶を掘り起こすというひとり回想療法をやってますが、ときどき吉田秀和さんの本のことも書くかもしれません。
たしか丸谷才一さんがおっしゃっておられたように、すぐれた音楽評論家であったばかりでなく、その文章の魅力によって音楽の聴衆を作り出した方なのですから。私もその一人ということで。