記憶の音節

なくしたCDの記憶を書き始めました。ブログ名は某書から拝借。

CDの記憶 マーラー 交響曲第4番 バーンスタイン/NYP

 

NHKの佐々木昭一郎ディレクター(当時)の伝説的な映像作品「四季・ユートピアノ」できわめて印象的に使われていた曲。

このドラマは、私の人生を変えたと言っても言い過ぎではない。

あの時あの番組に巡りあっていなかったら、果たしてその後なんとか生き延びて今ここでこうして趣味の文章を書いていられたかどうか。あまり自信がない。

音が主役とも言えるこのドラマの中でたびたび流れた第一楽章の旋律を、佐々木氏は「記憶の音節」と呼んでおられたように思う。このブログのタイトルはそこから拝借した。

この曲のCDは、バーンスタイン指揮の古いほうの録音1種類しか持っていなかった。

演奏には何の不満もなく、これ1枚で十分満足して繰り返し聴いた。

 ときどきFMやテレビで他の演奏を耳にすることがあっても、この演奏になじみ過ぎたためか、どれもなんとなくわざとらしく感じられてしまいあまり楽しめなかった。

聴き比べ好きな私としては、優れた演奏があればぜひ聴いてみたいとは思うのだが。 

 

大作が並ぶマーラー交響曲の中でも、長さといい内容と言い、第4が最もまとまって親しみやすい曲ではないかと感じている。第4の次にとっつきやすいのはやはり第1だろうか。いや見方を変えれば「大地の歌」か、それともいっそ第9かも?

 

 

この曲の お宝動画を見つけたので追記。

バーンスタイン指揮ウィーン・フィル、第四楽章のソプラノは懐かしのエディト・マティス。いずれもさすがとしか言いようがない。すばらしい。聴いてると涙出てくる…


Symph N°4 G Mahler D°L Bernstein Wiener ...

 

さらに追記。

YouTubeジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団の演奏を熱烈なコメントつきで上げている方がいた(英語)。

セルのマーラーはどんなだろうと思って早速聴いてみたら、これが絶句するすばらしさ。

第3、第4楽章など聴きながら溶けて水になってしまうかと思った。

これはそのうち買うことにしよう。

なぜか、その動画のリンクが貼れない。

興味のある方、検索して聴いてみてください。

CDの記憶 美空ひばりのジャズ

音楽好きには周知のことなのだろうが、やはり書かずにはいられない。

美空ひばりのジャズはすごい。

ジャンルだの何だのというつまらない区別をはるかに超越して、とにかく歌として、音楽としてすばらしい。

私は特に美空ひばりファンというわけではないけれど、彼女が歌うスタンダードナンバーの数々を聴いてすっかり魅了されてしまった。

嘘と思ったら聴いてみてください。

というわけで、これらは、なくなってしまったCDの中でも特に残念なものの一つだ。

 

ジャズ&スタンダード

ジャズ&スタンダード

 

 

LOVE! MISORA HIBARI JAZZ & STANDARD COMPLETE COLLECTION 1955-66

LOVE! MISORA HIBARI JAZZ & STANDARD COMPLETE COLLECTION 1955-66

 

  

ミソラヒバリ アーリーソング コレクション 1949~1957

ミソラヒバリ アーリーソング コレクション 1949~1957

 

どれをとっても、発声も発音もリズムも実にお見事。

私としては、古い録音の歌い方のほうがやや好みだったかも。

これも有名な話らしいが念のため書いておくと、彼女は実は英語を習ったことがなく、英語の歌詞をなんと耳で覚えたというのだ。それであの発音やリズム。いやはや。

 

無料動画もたくさんあるみたいだけど、権利関係とかよくわからないのでリンクはやめておきます。

 余談ながら、これらの録音を聴いていると昔の歌謡曲、流行歌の世界はもしかしたら現在のそれよりも 多様で豊穣だったのではないか?という気がしてくる。昭和のある時期までの歌謡曲の世界には、ジャズもタンゴもロシア民謡もシャンソンもカンツォーネも当たり前に同居していたような気がする。

 

おまけ。

上に紹介したアルバムのバックで演奏している原信夫とシャープス&フラッツ。

後年彼らが綾戸智恵と共演したライブでは、美空ひばりリスペクトな選曲と演奏でなかなか良かった。 

LIVE!II

LIVE!II

 

 

CDの記憶 セザール・フランク ヴァイオリン(チェロ、フルート)ソナタ

フランクのヴァイオリン・ソナタ

 この曲を「名曲」と言わずして何を名曲というのか、というくらいの名曲であります。もし私に淀川長治さん並みの話術があったら、この曲のいいところを次から次へと並べ立ててみたい。あるいはこの曲の一部始終を一席の講談に仕立てて語ってみたい。

 

 4楽章構成ですが、曲の冒頭に登場する音型が、手を変え品を変えしながら最後まで一貫して使われ、全体が一つの途切れない流れのようです。楽章ごとに違うテーマが使われる普通のソナタとはちょっと異なる趣。

 

この曲はもちろん純粋に音の世界のものではありますが、語ろうとするといろんな事象になぞらえてみたくなります。

この独特な構成の曲から受ける印象は、生物の成長を見るようでもあり、川とともに流れを下るようでもあり、人の一生の縮図のようでもあり、はたまた人の心の中で毎日のように生まれる葛藤と解決の過程のモデルのようでもあり、あるいは宇宙のどこかで人知れず生起している現象の記録のようでもあり・・・と、聴き手の心に様々な言葉を想起させます。

 

CDは、3種類持っていました。

ヴァイオリンソナタでありながら、別の楽器で演奏されることも多く、どのバージョンも同じくらい魅力的という不思議な曲なのです。

 

まずフルート版。アルゲリッチのピアノ、ゴールウェイのフルート。

管楽器の音で聴くのもいいものです。

フランク:フルート・ソナタ集

フランク:フルート・ソナタ集

 

 

チェロ版(アルゲリッチのピアノ、マイスキーのチェロ) ←これが、失われてしまいました。チェロの温かみのある音色で聴くのは格別の味わいがあり、演奏もすばらしかっただけに残念。  

ドビュッシー&フランク:チェロ・ソナタ集

ドビュッシー&フランク:チェロ・ソナタ集

 

 

そして、某海外若手(当時)男性有名ヴァイオリニスト演奏家の演奏…

 

最後は最近、廉価版シリーズで見つけて喜んで買ってきたのがボベスコ盤

ボベスコの奏でるヴァイオリンの音がとにかくすばらしい。

七色の糸を撚り合わせたような、とか、何色もの色を使って絵筆で描かれたような、とでも言えばいいのか?まるで一丁のヴァイオリンから複数の音色が同時に聞こえてくるような豊かな色彩感(?)を感じる音なのです。

これを聴いてしまうと、某若手の演奏は、技術的には完璧でも、音色のほうは失礼ながら黒ボールペンの細い線だけみたいな味気無さ。。

ま、この辺はもしかしたら録音や再生装置の問題かもしれませんけど。

(余談ながら私はヴァイオリンではグリュミオーやこのボベスコのような音色の奏者が好みです。) 

フランク:ヴァイオリン・ソナタ

フランク:ヴァイオリン・ソナタ

 

  

関連して、この曲への言及がある本を2冊ご紹介。

以前このブログでも紹介した吉田秀和さんの最初の著書『主題と変奏』。

セザール・フランクの勝利」という章があります。類稀な天分に恵まれながらずっと不遇の時代が続き、60歳代になってようやくヴァイオリン・ソナタをはじめとする少数の代表作を書いて間もなく亡くなった彼の生涯を思うと、ちょいと感慨に浸ってしまいますねえ。

 主題と変奏 (中公文庫)

主題と変奏 (中公文庫)

 

 

 もう一冊は、シュタイナー教育の紹介で知られる子安美知子さんの『魂の発見』。これはシュタイナー学校の音楽教育について著者親子の実体験をもとに書かれた、音楽好きにはなかなか興味深い本です。

ある生徒が校内での発表会に向けてフランクのこのソナタを懸命に練習し、演奏するまでのエピソードを読むと、ちょっと胸が熱くなります。

魂の成長を目指すシュタイナー教育には、ある意味最もふさわしい曲なのかもしれませんね。  

音楽選書(2)魂の発見

 

 

 

 

ところで、この記事を書くにあたって動画を探していたら、記憶の中のマイスキーアルゲリッチ盤よりも魅力的かもしれない演奏を見つけてしまいました。

ピエール・フルニエのチェロ。すばらしい…


Pierre Fournier plays Franck - LIVE! - YouTube

 

気に入った動画を追加。


César Franck - Vioolsonate in A - Frederieke Saeijs ...

 

 

 

CDの記憶 中島みゆき EAST ASIA

EAST ASIA

やばい恋

浅い眠り

萩野原

誕生

此処じゃない何処かへ

妹じゃあるまいし

二隻の舟

 

と、収録曲のタイトルを並べてみただけでどうですかこの迫力、この重量感。

これがベスト盤でなく普通のアルバムなのだから、もう恐れ入るしかありませんよ。

中島みゆきさんについては、ここであれこれ説明する必要もない。唯一無二の歌い手だ。

私はお世辞にも忠実なファンとは言えないが、数えてみたらアルバム20枚は聴いていた。間もなく発売されるという新作が41枚目らしいので約半分か。よく聴いたなあ。

何人かでカラオケに行ってみゆきさんばかり数時間歌ったことくらいはある。残念ながらライブは未体験。

第1作の「私の声が聞こえますか」から始まっていずれ劣らぬ名盤、名曲ばかりの中、どういうわけかこのアルバム「EAST ASIA」にはちょっと特別に惹かれるものがある。きっと同じように感じる人は少なくないのではなかろうか。

1曲目からいきなりすごい。今でも、何かショックな出来事があったような時など、いつの間にかこの曲を脳内再生していることがよくある。柳絮、という言葉はこの曲で覚えた。

大ヒット、大人気曲が並ぶこのアルバムの中では比較的地味な(?)「萩野原」がまた名曲なのだ。どうやったらこんな歌作れるんだろう。

 

しばらく聞き返していなかったとはいえ、これが手元から無くなってしまったのは心細い。いざという時に必要になりそうな気がする。そのうち買い直しましょうかねえ。 

EAST ASIA

EAST ASIA

 

 

吉田秀和「LP300選」あるいは「名曲三〇〇選」、「私の好きな曲」ほか

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

だそうな。

分野別に見ていくとキリがないけれど、音楽ブログを書いていることからするとたぶん間違いなく故吉田秀和さんの本。

最初は新潮文庫から刊行された吉田秀和「LP300選」、現在はちくま文庫から「名曲三〇〇選」として復刊されている。

Amazonのデータから解説を転載すると、

「グレゴリウス聖歌やルネサンスの音楽から、ブーレーズシュトックハウゼンらの現代音楽まで―音楽史の流れをたどりながら、きくものに忘れがたい感動をあたえる傑作300曲を選び、文化や芸術への深い洞察に満ちた解説を加える。音楽の限りない魅力と喜びにあふれる「名曲の歴史」。 」

 

一冊の文庫本の中で、西洋音楽の通史を、300曲の名曲を歴史の大きな流れの中に位置づけながら、作曲家ごと、曲ごとの固有の魅力を解説している。しかもその文章は教科書的になるどころか読み手の感性や関心を目覚めさせるみずみずしさに満ちていると同時に、誰よりも確かな知識と経験に裏打ちされている。こんな本が書ける人が他にいるとはとても思えない。

クラシック音楽の入門期にこのような本に出会ってしまって影響を受けないわけがない。

しかも新潮文庫版の巻末には、曲ごとに詳細なおすすめLPガイドがついていて、これがまた読み応えたっぷりなのだ。今思えばこの上なく幸運な出会いだった。

 

ちなみに300曲の名曲の一曲目は、『宇宙の音楽』。これは文字通りの意味であって、実際にこの題名の曲があるわけではない。著者の音楽への、ひいては宇宙への畏敬、敬意が表明されたこの導入部で私はすっかり参ってしまった。よかったらぜひ原文に当たってみてください。ちょっとだけご紹介。

ー「天と地のもろもろのもの」を、神がつくった時、どんな音楽が宇宙にひびきわたったのであろうか?」ー(新潮文庫版 14ページ)

(2曲目は「グレゴリオ聖歌」。)

 

このブログでは今のところ、失われたCDの記憶を掘り起こすというひとり回想療法をやってますが、ときどき吉田秀和さんの本のことも書くかもしれません。

 たしか丸谷才一さんがおっしゃっておられたように、すぐれた音楽評論家であったばかりでなく、その文章の魅力によって音楽の聴衆を作り出した方なのですから。私もその一人ということで。

 

名曲三〇〇選―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)

名曲三〇〇選―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)

 

  

私の好きな曲―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)

私の好きな曲―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)

 

 

CDの記憶 武満徹のうた

 


武満徹 「翼」 - YouTube

 

武満徹の合唱のための一連の「うた」を最初に聴いたのは、高校の「芸術鑑賞」だった。記憶の間違いでなければ演奏は岩城宏之指揮、東京混声合唱団。

今思えば相当に贅沢な企画ではあった。

当時クラシックを多少聴き始めていたとはいえさすがに武満は初体験。しかし一連のうたの良さは、演奏のすばらしさもあっていきなりストレートに伝わってきた。

最初はざわついていた会場も次第に静まり、「死んだ男が残したものは」あたりではもう固唾を呑んで聴き入り、終演後は大拍手。

 

作詞は谷川俊太郎によるものが多い。もともと谷川ファンでもあった私はこれらの歌がすっかり気に入ってしまい、後にCDを見つけるたびに買ってきては聞き比べた。

 

まず岩城宏之指揮の東京混声合唱団。これは「合唱」と聞いて想像するとおりの模範的な(?)歌声。

 

小さな空: ◯と△の歌

小さな空: ◯と△の歌

 

 

次は晋友会合唱団。これも非常に優れた合唱。東混とはかなり違った味わいがあって面白い。

 

明日ハ晴レカナ、曇リカナ~武満徹:混声合唱のための〈うた〉

明日ハ晴レカナ、曇リカナ~武満徹:混声合唱のための〈うた〉

 

 

時代とともに、次第に合唱以外の分野からも取り上げるアーチストが増えてきた。

石川セリがポップスのアレンジで歌った盤。全く違和感なく、最初から彼女のために書かれたよう。小さなライブハウスで聴きたい。

 

翼 武満徹ポップ・ソングス

翼 武満徹ポップ・ソングス

 

 

波多野睦美のアルバムにも何曲か収録されていた。繊細で美しい発声、発音が抜群。叶うなら教会か小さなホールかで聴いてみたい。

 

アルフォンシーナと海

アルフォンシーナと海

 

 

ショーロクラブが何人かのボーカリストアン・サリーおおたか静流ほか)をフィーチャーした盤。これはダウンロードで買ったため唯一現在手元に残っている。とても気に入っていて時々聴く。

 

 

武満徹ソングブック

武満徹ソングブック

 

 

これらの曲の一部をアマチュア合唱団で歌った経験もあるあるが、大変だった。一見やさしいメロディーなのだが、楽譜はけっこう複雑で素人にはかなり難しい。

難しいといっても、バッハの難しさとも違う。バッハでも音がとんでもない飛び方をするが、着地がピタリと決まれば荘重な和音が美しく、時に劇的に響く快感で報いられる。

しかし武満の曲は、パート譜を追っていってもどの音に飛ぶか予測がしづらい上にハーモニーがまったく独特だったりで、果たして正しく歌えているのかなかなか確信が持てない。そのあたり、親しみやすそうに見えてもやはり現代音楽なのだな、と感じる。

 

「○と△のうた」や「うたうだけ」など、気が付けば時々口ずさんでいることがよくある。

「翼」や「小さな空」を黙って心の中で歌って(聴いて)いるとふと涙ぐみそうになることも。

武満さん、もっと長生きしてこんな歌をたくさん書いていただきたかった。

  


小さな空 by 波多野睦美:メゾソプラノ - YouTube

 

↓これは武満が編曲したもの。

 
混声合唱 さくら - YouTube

 

 

CDの記憶 パット・メセニー

パット・メセニー。一時期本当によく聴いた。毎日毎日、数枚のCDを自宅や通勤中に繰り返し繰り返し再生し、仕事中も脳内再生してはなんとか元気を出していた。(当時は月200時間残業とか普通にしてました。)

そんなふうにかつて栄養ドリンク代わりに役立ってもらってしまったメセニー。多作ゆえ追いきれなくなったりしているうちに次第に遠ざかってしまい、最近の動向は全く知らない。

しかし今でも時々ふとした拍子に記憶が甦って懐かしくなり動画を漁ったりしている。彼の音楽のあの爽快な解放感、飛翔感、疾走感…はちょっと類がない。聴いていると風になって広大な大陸の上空を旅しているような気持ちになれる。

もちろん曲はワンパターンではなくて、スローでノスタルジックな曲やユーモアの効いた曲も良い。

彼の音楽は私の脳内で「良いアメリカ」の一つの象徴にまで昇華されている(ちょっと大げさかな?)。なんというか、アメリカの田舎のガタイのいいむちゃくちゃ人の良さそうなあんちゃんから背中をバン、とたたかれて「よう、元気か!?」とか言われてる感じ、とでも言えばちょっとイメージが通じるかな?(アメリカには行ったこともないのであくまで妄想。)

主に聴いていたCDは、

Still Life

Still Life (Talking)

Still Life (Talking)

 

 

Letter From Home

Letter From Home

Letter From Home

 

 

First Circle

ファースト・サークル

ファースト・サークル

 

 

あたり。

そうそう。来日公演のライブをFMで放送していたのをエアチェック(死語?)してテープがすり切れそうなほど聴いたのも懐かしい。

動画をいくつか貼っときます。


Pat Metheny Group - Beat 70 - 1989 - YouTube


Pat Metheny - First Circle - YouTube


PAT METHENY - LETTER FROM HOME - YouTube